心霊旅館
南野奈菜は石川真子と鈴田花の2人を湯の山温泉の祖父母の民泊に招こうとしたが、鈴田に心霊スポットがあるからと断られ卒業を前に彼女と険悪になってしまう。
2人でいくつもりだったが石川も濃厚接触者となり行けなくなり旅行は中止になる。
しかし、心霊旅館で火災があり鈴田と仲直りするものの
スピリチュアルな言葉にゾッとしてしまう。
卒業旅行「温泉に行こう!」
私、南野奈菜は卒業を前にパッとしなかった4年間の大学生活をしめくくるべく、友人3人と卒業旅行を計画していました。
「海外は無理だよね?」友人の1人石川真子が呟きました。
「ちょっとまだ怖いよね!そもそも泊まりはちょっと」鈴田花が残念ながら消極的な意見をつきつけてきました。
私はどうしても最後の思い出を作りたかったので「温泉なんかどうかな?」全員スパ好きなこともあるし花の意見をもみ消すように強い口調で素早く提案しました。
「いいね!」真子は賛成しました。
「でもな私お金ないんだよね」と真子がどっちつかずの雰囲気を醸し出して言いました。
私はどうしても一泊という気持ちがあったので「湯の山温泉の私のおばあちゃんが民泊をやってるからそこはどうかな?そこから湯めぐりとか」
「えっいいの!」
真子は本当にお金がなかったようでこっちに傾いてきてくれました。
真子は落ちた!花ちゃんは?
「湯の山温泉?菰野の?」花が曇った顔で言った。
「そうだよ!どうかな古い家だったんだけど民泊用にリノベーションして。何度も家族で行ってるけど快適だよ。食事もおじちゃんが元シェフをやってて、すごく美味しいの。就職しちゃうとなかなか会えないし一泊して卒業の思い出を作っておこうよ?」
言い放った後声がとても大きくなっていることに自分で驚いてしまいました。
「ただで泊まっちゃっていいの?」
「もちろんだよ」
「ええ嬉しいな」
真子は完全に乗り気な反応でした。
「花ちゃんもいいよね!浴衣も可愛いのがあるんだよ!3人で写真撮るの楽しみだね!」
私は早くも3人で並んで温泉に入っているところをイメージしていました。
「私は湯の山温泉には行きたくない」
花はさっきよりひきつった顔で答えました。
湯の山温泉に行きたくない理由!
こんなことで言い合いはしたくないけど、自分の田舎を否定された気持ちでイラっとしてしまいました。
「えっ何で?もちろん湯の山じゃなくてもいいんだけど、おばあちゃんのうちならお金かからないし」
「泊めてもらえるのは魅力だな」
真子がすぐに便乗してくれたので救われました。
「おばあさんの家には行ってみたいんだけど、私は霊感が強いでしょ、廃業した心霊旅館があるから怖いの」。
「えっ全然大丈夫だよ!確かに心霊スポットとか言われてるけど、おばあちゃんのうちは結構近いけど、隣じゃないよ、大丈夫だよ」。
「結構近いので絶対に無理だし、2人も行かない方がいいかも」。
「何かひどい!もういいや。真子ちゃん2人で行こう」
「そうだね、せっかくだから私は行かせてもらおうかな」。
本当に行かなくてよかった!
卒業を前に私は花ちゃんと目も合わせられなくなってしまった。
さらに予定していた日の数日前に真子ちゃんもバイト先で濃厚接触者になってしまって結局温泉旅行は中止になってしまいました。
私はひどく落ち込んでいたのですが旅行予定の日の夜、驚きのニュースをテレビで見ることになりました。
例の心霊旅館の火災のニュースでした。
祖父母はもちろんけが人は出ませんでしたが火が消えるのに10時間もかかったと言うことで、おばあちゃんも「来なくてよかったね」と電話で話していました。
私は花ちゃんに謝りたい気持ちでLINEしました。
花ちゃんは岐阜とか南知多の廃業旅館の心霊スポットで火事が発生していることを知っていて何となく嫌な予感がしたというのです。
放火として捜査しているというけど、養老町の旅館では2回も火事があったというから私は祖父母が住んでいるのでとても心配な気持ちになっています。
花ちゃんは「何か感じたら教えるね」とシレっと言ってくれた。
ありがたいけれどゾワっとして今後も友人を続けられるか自信がなくなってしまった。